奈良吉野の移住登山ガイド ちくちゅーの日記

山が好きで、山に住んでみたくて移住しました。山暮らし、ガイド報告、登山ネタetc.

大峰・天ヶ瀬古道をたどって和佐又山に登る

大峰・大普賢岳の麓、奈良県上北山村に天ヶ瀬という集落(廃村)があります。大普賢岳の中腹には笙の窟という半洞窟があり、実利行者による千日籠行の逸話が残っている他、多くの修験者がここで修行をしたそうです。そうした荒行を支えたのが天ヶ瀬の人々で、かつては天ヶ瀬から笙の窟まで登る古道があったと聞き、以前から興味を持っていました。確かに、いまでも地形図には古道と思われる歩道が書き込まれています。先日5/10(月)、ついにこの道を歩いてきました。

*ログはYAMAPをご覧ください。

yamap.com

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上北山村に入り、国道169号線と309号線の分岐から少し309号線に入ったところに駐車し、地形図の表記通り旧道から山道を上がっていきます。すぐにT字路が出てきますが、集落方向の左手に入ると立派な石垣と廃屋が見えてきました。

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廃屋からさらに左手に進むと天ヶ瀬の集落がありますが、右手にも立派な道が続いているのが気になっていったんこちらをたどってみます。すると神社に出会いました。

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天ヶ瀬集落とその隣の日浦集落の境の尾根上にあり、この2つの集落のお宮だったのでしょうか? 境内の片隅にはうっすら「遥拝」という文字が読み取れる木柱がたっていました。現在は樹林におおわれ周囲の展望はほとんどありませんが、どの方向を遥拝していたのか、気になります。

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天ヶ瀬の方に戻り、廃村の中を通り抜けています。五右衛門風呂や子どもサイズの上履きなど、生活の痕跡が垣間見られました。

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集落を通り抜けてほぼ水平に西へトラバースしていきます。しばらくは石垣がありましたが、小尾根に出会うとそこから先は道がはっきりとしません。地形図通りこの小尾根を直登し、高和田山に向かいます。わずか20分ほどですがかなりの傾斜で、大汗をかきながら登ります。樹形が特徴的なアカマツがありちょっと怖いくらいでした。

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上の尾根に出ると傾斜がゆるみ、爽やかな風で癒されました。そのまま尾根をたどって高和田山へ。頂上直下は伐採されており、大普賢岳(中央やや右奥)と和佐又山(右)がよく見えました。和佐又山から左手前に伸びてきている新緑の尾根をこれからたどっていきます。高和田山と和佐又山の間には小塚の森という小ピーク(中央手前)があります。

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和田山山頂は視界なし。四等三角点がありました。

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尾根づたいにまずは小塚の森へ向かいます。すると立派な林道に出ました。いままさに林道をのばす作業途中のようで、将来は高和田山まで林道がつくのかもしれません。写真は振り返ったところで、右手が歩いてきた林道、左手の斜面が伐採されている山が高和田山です。一番奥は遠く大台ヶ原方面です。

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しばらく林道を歩き、林道終点から支尾根をたどって和佐又山への主稜線に復帰します。小塚の森から和佐又山は巨樹の点在する美しい自然林でした。

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やがて和佐又山山頂に到着。かなり大普賢岳が近くなりました。元々の古道は和佐又山の山頂をまいて北側のコルに出ているようですが、はっきりとはわかりませんでした。本来の趣旨からすればここから笙の窟まで向かうべきですが、和佐又山~笙の窟間は既知の道のりのため、今日は北側のコルから底無井戸、水簾の滝を経由して車に戻る周回ルートをとります。

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和佐又山のコルから先では期待通りヤマシャクヤクが見ごろを迎えていました。すでに葉っぱが散っているものも見られました。

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道中、大普賢岳の前衛峰である小普賢岳(左)と日本岳(右)の岩壁が立派でした。右手の日本岳の中腹に笙の窟があるわけですが、美しい自然林の中から見上げる大岩壁はなんだか異世界という感じがします。

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縦穴洞窟であるところの底無井戸。かなり深いです。

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水太林道に下山し、駐車地までは約1時間の林道歩き。とぼとぼ歩いていると、カモシカが沢を横断していました。

林道歩き含め約7時間の周回コースとなりました。和佐又山周辺は自然林が美しく、秋には気持ちの良い紅葉登山となりそうです。

笙の窟まで行くことを考えると、天ヶ瀬からは結構な距離となります。昔の人は現代人よりかなり健脚だったとは思いますが、物資を担いで往復することはなかなかの重労働だったのではないでしょうか。何が村人を動かしたのか、その精神的な部分も知りたいと思いました。また和佐又山周辺の穏やかな自然林に比べると、稜線の岩壁帯は異質な雰囲気で対照的でした。今より情報がなかった昔は、山の上はもっと恐ろしい世界として捉えられていたのかもしれません。大峰のまた新たな一面を知った気がした古道歩きでした。