登山のトレーニング考 現状把握のための体力テスト
最近、こちらの本を読んでいます。
昨年ネパールから帰国して、高所登山を目指す上での指針となるような考え方を学びたいと思っていました。著者の山本正嘉先生は東大スキー山岳部OB、現・鹿屋体育大学教授教授で、低酸素室トレーニングを活用した7,000m峰の短期登頂などを実践されています。前著の『登山の運動生理学百科』は学生時代に読んでいたのですが、大幅に増補改訂された本書に目を通すと、参考になる記述が随所にあり何故これをもっと早くに読んでおかなかったのだろうと思ってしまいました。
まずは現状の把握をするべく、この本の記述に基づいて体力テストを行ってみましたので、記録を残しておきます。
2つの体力テスト結果
同書を参考に、LTテスト(マイペース登高能力テスト)とVO2Maxテスト(全力登高能力テスト)を行いました。
LTテストは2021年5月10日、大峰・小塚の森~和佐又山間で行いました。体重の20%のザック(約10kg強)を背負ってマイペース(きつさを感じる手前の強度)で登り、結果は30分間で標高差249m上昇でした。本来は1時間登り続けるテストなのですが、地形の都合上30分間で行った数値を2倍して考えます。つまり1時間で標高差498m登りきる体力があるというになり、これは8メッツ強となります。
VO2Maxテスト(全力登高能力テスト)は2021年5月14日、大台ヶ原(大杉谷)のシャクナゲ坂で行いました。空身で15分間全力で登高し、標高差213m登りました。これは40ml/kg・分の能力となります。
※メッツ=運動の強度をあらわす指標。安静時が1メッツ。8メッツは安静時の8倍エネルギーを消費する運動ということ。
現状の評価と目標
2つのテストの詳細や意味はぜひ同書をご覧いただければと思いますが、簡単にはLT(乳酸閾値)が通常の歩行時の能力を示しており、岩登りや高所登山で局所的に激しい運動をする局面ではVO2Max(最大酸素摂取量)が使われるとのことです。
まずはLTの評価をします。
LTは通常の登山で7メッツ、バリエーション登山で8メッツが求められます。現状8メッツ強の能力があるので、これはクリアです。ただし、余裕をもって9メッツの力があればなおよしです。9メッツは体重20%のザックを背負って1時間で標高差540m上がる能力(あるいはトレイルランニング相当)ですので、現状の498mより42mアップを目指すべしとなります。
次にVO2Maxの評価です。
VO2Maxは20~30代の一般男性で40mlあり、バリエーション登山を目指す場合で50mlが目標値とのこと。つまり現状は一般男性の範囲であり、バリエーション登山を目指すには不足していることがわかります。これはショックでした…。目標値の50mlは15分間に275m登る力であり、現状の213mより62mアップを目指すべしとなります。
それぞれのトレーニング方法(案)
LTのトレーニングは登山そのものが最も適し、マイペースで登高すればよいとのこと。時間は60分以上が目安ですが、登山時間が通常数時間にわたるため、普通に登ればよさそうです。
ただ年間100日程度山にいく生活を既に何年も続けていますので、現状を何かしら変える必要はありそうです。ザック重量を増やすとか、登高速度をもう少しあげるといったことでしょうか。経験的には自分は高重量に弱いため、ボッカトレーニングを兼ねて行うのがいい気がしています。
VO2Maxのトレーニングは心拍数を一定以上に高められる運動であれば、走る・自転車をこぐなど種目を問わないとのこと。主観強度がきつい~かなりきついの間で20~30分ほどが目安です。我が家の環境では車道でのランニング、山で一区間だけ早歩きを行うといった方法がよいでしょうか。
今後の課題
上記のトレーニングを実際の生活にどう無理なく組み込んでいくかが今後の課題です。またコロナ禍もあり海外登山の予定はたてづらい状況が続いていますので、その手前の小目標をつくってどうモチベーションを維持していくかも考える必要があります。
※注意※
VO2Maxテストは非常に強い負荷がかかるため、LTテストで8メッツ以上の能力がある若者のみ行ってよいとされています。各テストを行う際はこのブログの内容だけではなく、必ず同書を参照してください。
春爛漫の白髭岳北尾根(今西ルート)
5/11(火)、奈良県川上村最高峰の白髭岳(1,378m)に登ってきました。本来は公募プランでこの時期シャクナゲが美しい百合ヶ岳をご案内する予定だったのですが、落石により林道が通行止め。開催日までに解除される見込みがなく、対岸の白髭岳に転進しました。
こちらが百合ヶ岳から望む白髭岳。画面中央の鋭鋒です。一般的な登山ルートは北尾根と西尾根(東谷コース)の2本ありますが、どちらも見た目通りの急坂が続く、登りごたえある山です。
白髭岳は京都大学名誉教授で登山家でもある今西錦司氏が1985年に御年83歳で日本1500登山を達成した際、1500山目に選ばれた山でもあります。その際使われたのが今回たどった北尾根です。
ちなみに今西氏は日本人が初登頂した8,000m峰であるマナスル峰の踏査隊長を務められており、個人的に昨年この目でマナスルを見てから勝手に縁を感じています。笑
マナスル(8,163m)2020年3月撮影
今西氏が白髭岳に登った当時は林道が奥まで通行できたようですが、現在は麓の集落の水道施設より先は崩壊により徒歩でしか通行できません。
まずは小1時間ほど崩壊林道を歩きます。
林道からは中奥川鳥渡谷の切れ込みの向こうに白髭岳から池木屋山に接続する長大な尾根の側壁が見えています。秋だと眼下に大鯛滝が見えるのですが、今回は樹林のためよく見えませんでした。
林道終点から小沢を渡って尾根に取り付きます。はじめは非常に滑りやすいじぐざぐの急坂が続きます。今シーズン初のギンリョウソウに出会いました。
尾根に出ると、これまた急坂です。ゆっくりと高度を上げていきます。
林道終点から1時間ほどで北尾根の主稜線に出ました。とたんに爽やかな風に迎えられます。合流点の小ピークには高尾という地名がついています。ここから尾根の右側(西側)が自然林となり明るくなります。
ちょうどミツバツツジが終わりを迎えアケボノツツジが見ごろを迎えており、足元はピンクの絨毯、頭上は春爛漫といった雰囲気でした。
稜線上の小ピークは巻き道もあるのですが、お花が見たいがためにわざと稜線を歩いたりしました(笑)
シャクナゲもちらほらと咲いています。
浮かれたい気持ちは山々ですが、足元は滑落注意のナイフリッジが続き、気が抜けません。
1286mピーク手前のロープ場を抜けると山頂が垣間見えました。山肌に点々と鮮やかなツツジが輝いており、歓声が上がります。
ここから少し尾根が広がるものの、急坂は相変わらずで我慢の登りを経てようやく山頂に到着です。
山頂には今西氏登頂記念の立派な碑が建っています。
頂上からは大峰の大普賢岳、八経ヶ岳、台高の白屋岳、薊岳などが遠望できました。山頂のお花もちょうど見ごろを迎えており、お花見ランチを堪能して往路を慎重に下山しました。
これまで秋に登ることが多く、険しくどちらかというと寂しい印象の白髭岳にこのような華やかな一面があったとは意外でした。思わぬ収穫を得た一日となりました。
大峰・天ヶ瀬古道をたどって和佐又山に登る
大峰・大普賢岳の麓、奈良県上北山村に天ヶ瀬という集落(廃村)があります。大普賢岳の中腹には笙の窟という半洞窟があり、実利行者による千日籠行の逸話が残っている他、多くの修験者がここで修行をしたそうです。そうした荒行を支えたのが天ヶ瀬の人々で、かつては天ヶ瀬から笙の窟まで登る古道があったと聞き、以前から興味を持っていました。確かに、いまでも地形図には古道と思われる歩道が書き込まれています。先日5/10(月)、ついにこの道を歩いてきました。
*ログはYAMAPをご覧ください。
上北山村に入り、国道169号線と309号線の分岐から少し309号線に入ったところに駐車し、地形図の表記通り旧道から山道を上がっていきます。すぐにT字路が出てきますが、集落方向の左手に入ると立派な石垣と廃屋が見えてきました。
廃屋からさらに左手に進むと天ヶ瀬の集落がありますが、右手にも立派な道が続いているのが気になっていったんこちらをたどってみます。すると神社に出会いました。
天ヶ瀬集落とその隣の日浦集落の境の尾根上にあり、この2つの集落のお宮だったのでしょうか? 境内の片隅にはうっすら「遥拝」という文字が読み取れる木柱がたっていました。現在は樹林におおわれ周囲の展望はほとんどありませんが、どの方向を遥拝していたのか、気になります。
天ヶ瀬の方に戻り、廃村の中を通り抜けています。五右衛門風呂や子どもサイズの上履きなど、生活の痕跡が垣間見られました。
集落を通り抜けてほぼ水平に西へトラバースしていきます。しばらくは石垣がありましたが、小尾根に出会うとそこから先は道がはっきりとしません。地形図通りこの小尾根を直登し、高和田山に向かいます。わずか20分ほどですがかなりの傾斜で、大汗をかきながら登ります。樹形が特徴的なアカマツがありちょっと怖いくらいでした。
上の尾根に出ると傾斜がゆるみ、爽やかな風で癒されました。そのまま尾根をたどって高和田山へ。頂上直下は伐採されており、大普賢岳(中央やや右奥)と和佐又山(右)がよく見えました。和佐又山から左手前に伸びてきている新緑の尾根をこれからたどっていきます。高和田山と和佐又山の間には小塚の森という小ピーク(中央手前)があります。
高和田山山頂は視界なし。四等三角点がありました。
尾根づたいにまずは小塚の森へ向かいます。すると立派な林道に出ました。いままさに林道をのばす作業途中のようで、将来は高和田山まで林道がつくのかもしれません。写真は振り返ったところで、右手が歩いてきた林道、左手の斜面が伐採されている山が高和田山です。一番奥は遠く大台ヶ原方面です。
しばらく林道を歩き、林道終点から支尾根をたどって和佐又山への主稜線に復帰します。小塚の森から和佐又山は巨樹の点在する美しい自然林でした。
やがて和佐又山山頂に到着。かなり大普賢岳が近くなりました。元々の古道は和佐又山の山頂をまいて北側のコルに出ているようですが、はっきりとはわかりませんでした。本来の趣旨からすればここから笙の窟まで向かうべきですが、和佐又山~笙の窟間は既知の道のりのため、今日は北側のコルから底無井戸、水簾の滝を経由して車に戻る周回ルートをとります。
和佐又山のコルから先では期待通りヤマシャクヤクが見ごろを迎えていました。すでに葉っぱが散っているものも見られました。
道中、大普賢岳の前衛峰である小普賢岳(左)と日本岳(右)の岩壁が立派でした。右手の日本岳の中腹に笙の窟があるわけですが、美しい自然林の中から見上げる大岩壁はなんだか異世界という感じがします。
縦穴洞窟であるところの底無井戸。かなり深いです。
水太林道に下山し、駐車地までは約1時間の林道歩き。とぼとぼ歩いていると、カモシカが沢を横断していました。
林道歩き含め約7時間の周回コースとなりました。和佐又山周辺は自然林が美しく、秋には気持ちの良い紅葉登山となりそうです。
笙の窟まで行くことを考えると、天ヶ瀬からは結構な距離となります。昔の人は現代人よりかなり健脚だったとは思いますが、物資を担いで往復することはなかなかの重労働だったのではないでしょうか。何が村人を動かしたのか、その精神的な部分も知りたいと思いました。また和佐又山周辺の穏やかな自然林に比べると、稜線の岩壁帯は異質な雰囲気で対照的でした。今より情報がなかった昔は、山の上はもっと恐ろしい世界として捉えられていたのかもしれません。大峰のまた新たな一面を知った気がした古道歩きでした。
竜口尾根・又剣山から日本のギアナ高地を望む
昨日5/6(木)は竜口尾根・又剣山へ。
竜口尾根は大台ヶ原を真正面に望む絶景尾根です。山深いアプローチのため静かな山歩きが楽しめ、この日も貸し切りでした。
ここから見ると大台ヶ原が断崖絶壁を従えたテーブルマウンテンだということがよくわかります。日本のギニア高地と呼んでもいいでしょう(笑)
最近は雨が多く西大台から流れ出る西の滝、中の滝は大迫力でした。大台ヶ原がギアナ高地なら落差250mを誇る中の滝はさしづめエンジェルフォールといったところでしょうか?
ミツバツツジ、アケボノツツジ、シャクナゲと意外にお花にも恵まれた山行となりました。特にアケボノツツジ、シャクナゲはまだ咲き始めで、よいタイミングでの訪問でした。
もっと知られてもいい山です。
ボルダリング用マット購入。近所の河原でひと登り
ついにボルダリング用マットを買ったので、今朝、雨が降り出す前にひと登りしてきました。家からアプローチ5分の「近所の河原ボルダー(仮)」。
道路から見えていてずっと気になっていた岩を登れたので満足です。誰も見向きしない場所でも、見方を変えれば遊び場になりますね。