奈良吉野の移住登山ガイド ちくちゅーの日記

山が好きで、山に住んでみたくて移住しました。山暮らし、ガイド報告、登山ネタetc.

2020年登り納めは雪の大峰・稲村ヶ岳

2020年12月29日、個人的な登り納めと冬の下見を兼ねて雪の稲村ヶ岳に行ってきた。翌日からは寒波到来で好天が見込めるのはこの日がラストチャンス。予想以上の好天に恵まれ、頂上からは白山や四国・剣山まで望める充実の山行となった。

稲村ヶ岳は女人禁制の山上ヶ岳に対し女人大峯と呼ばれ、山上ヶ岳同様修験道の中では重要な位置づけの山。「稲村」の由来は刈り取った稲を積んだ「稲叢(いなむら)」に由来していると言われており、確かに稲叢の姿は今の大日山そっくり。そもそも本来は今の大日山こそが昔の稲村ヶ岳であったらしい。

大峰の主稜線から外れているためどこからでも目立つ山。見た目は険しい姿ながら夏はトラバース主体の登山道で意外に登りやすいが、冬期は斜面に雪が積もってトラバースが困難となり、アイゼン・ピッケルを使った登山が楽しめる関西では貴重な山のひとつ。

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 6時に自宅を出発し、夜明け前から一路天川村へ。天川村入口の気温計でマイナス3℃。観音峰展望台の気温計でマイナス5℃。洞川温泉街の手前で一気に雪が増え、路肩には雪の小山が目立つ。ごろごろ水のあたりは道路上にも雪が残っており、同じ天川村でも入口の川合とは別世界だなという印象。

登山口となる母公堂の駐車場は最後の1台に滑り込みセーフ。登山は1日1台800円。トイレは暖房がきいていて快適。前日、ライトを持たない観光客が山に入って道迷いし、夜遅くまで救助騒動があったそうで、くれぐれも気を付けてと言われ出発。

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登山道入ってしばらくすると雪が出てくる。橋が滑るので非常に気を遣う。ノーアイゼンで法力峠へ。それまで無風だったが南風が吹いている。峠は風があたるので通り過ぎ、その先の小ピークの影で休憩&アイゼン装着。

廃トイレを過ぎると自然林となり、斜面が南向きになるので雪が緩む。アイゼンはもう少し後でもよかったかもしれない。とはいえ凍結しているところもあるので、そのまま進んでいく。

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ところどころで樹間に大日山の雄姿や観音峰展望台を望むことができる。

パオーン杉の雪は少なめ。この先のコルで冬道(尾根道)にあがることができるが、トレースは夏道通りのため、それに従う。

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ひたすらトラバースで標高を上げ、お地蔵さんの小さな広場でストックをピッケルに持ち替える。この手前にも二ヶ所ほど足場が細い雪壁状のところがあったが、慎重に通過すれば問題ない程度。

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お地蔵さんから稲村ヶ岳山荘まではトラバースが一段と厳しくなる。

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余裕のあるところで足元を撮影。これより足場が狭いところもある。ところどころ先行者がハマった落とし穴があり恐ろしい。

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崩壊橋も足元注意

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危険なトラバースはお地蔵さんから20分程度の短い区間ではあるが、小屋が見えるとほっとする。村営トイレは冬期閉鎖されているが、小屋裏のトイレが使用可能。1人1回100円。

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小屋から先しばらくは冬道の尾根にトレースがついていた。大日山手前の小ピークは夏道通り巻き、いよいよ最後の難所・大日のトラバースへ。今回はトレースがしっかりついておりそれほど大変ではなかったが、最後の方の雪が緩んでいるところだけは一瞬恐ろしかった。写真は通過を終えて振り返ったところ。

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稲村・大日のコル(キレット)から先は夏道通り稲村ヶ岳へ。途中、後ろの大日山が素晴らしい。

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というわけで稲村ヶ岳山頂に到着! 右後方の台形の山は山上ヶ岳。前々日の雨の影響か、全体を通して思ったより雪は少なかったな~という印象。

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山頂展望台からの眺めは抜群。金剛・葛城方面。最近はこれを略してコンカツと言うらしい。

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こちらから見ると優美な姿の大普賢岳。右後ろに大台ヶ原の大蛇嵓も見えている。

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弥山・八経。さすがにあちらは標高1900mを越えているだけあって霧氷となっている様子。写真だとわかりづらいが弥山の左肩に釈迦ヶ岳の山頂が顔を出している。

さらに肉眼では白山や四国・剣山の雪をかぶった姿が見えていた。もしかするとアルプスの山々も見えていたのかもしれない。

展望を満喫し、往路を戻ってお次は大日山へ。

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大日山は夏でも厳しい崩れかけた階段の連続で、今回は雪の状態がよかったので行けたものの、本当の厳冬期は稲村に登るだけで精一杯だろう。写真は大日から望む稲村ヶ岳。かなり岩がち。

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雪に埋もれた大日山山頂。

往路を慎重に戻り、稲村ヶ岳山荘のベンチで昼食をとった後、下山は冬道へ。

その前に山上ヶ岳方面に5分ほどいった水場(沢)で水を補給。かなりチョロチョロでこれ以上雪が多いと完全に埋もれると思われるが…。そこから冬道の尾根へ直登した。

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冬道といっても道があるわけではなく、シャクナゲの薮をかき分けて歩く。たまにテープが巻いてあるだけ。普段はトラバースしている登山道の上の尾根をたどるので、下山というより登山の感が強い。ひとりくらい誰か歩いているかと思ったがノートレースで、ラッセルとなりここまでの登りより大変だった…

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co1630の小ピークを越え、次の白倉山とのコルから斜面をかけおり往路のトレースに合流する。写真真ん中のコルから下りてきた。冬期はここで冬道にあがるか、夏道をたどるかの判断が難しいところ。お地蔵さん手前の支尾根から冬道にあがる手もあるが、シャクナゲの薮が埋もれていなければ厄介かも。

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途中アイゼンを外し、年内最後にヘマをしないようにと自分に言い聞かせて無事下山。写真は登山口の道路の様子。寒波がきた今頃は真っ白になっているだろう。

稲村・大日の各ピークに到達し、冬道の偵察もできて目標の8割がたは達成できた山行となった。ついでに夏道では巻いている白倉山にも登りたかったが時間切れで今回はパス。さすがに雪がどれだけ降っても白倉山の下のトラバース道が使えなくなることはないだろう。そんなときにはそもそも登山口までのアプローチが危険な状態だと思われる。

登山者としての自分は例え小さいピークであっても白倉山に登りたいと思ったが、ガイドとしての自分は下見という目標は達成したので日没を迎えるリスクを受け入れてまで白倉山まで行く必要はないと判断し、父としての自分は子どもが待っているので夕飯までに帰りたいとささやいたといった感じ。

以前は登山におけるリスク以外の要素(家のために早く帰りたいとか)で当初の計画を曲げるのは不純だと考えていて、踏めるピークは全部踏みたいと思っていたが、最近ではそうでもない自分がいる。人生の限られた時間を登山に分配するかそれ以外に分配するかでいえば、それ以外の方に振った方が幸せが増加すると思うようになる場合が出てきた。登山者としては失格なのかもしれないが、家庭をもつひとりの人間としてはそちらの方がまっとうな判断だろうという思いもあり、悩ましい。突き詰めれば自分にとって山って何だという話になるのだろう。その答えは来年に持ち越すことになりそうだ。

時間記録

7:45母公堂~9:05法力峠~10:00パオーン杉~10:45お地蔵さん~11:05稲村ヶ岳山荘11:20~12:05稲村ヶ岳山頂12:25~12:35キレット~12:45大日山山頂~12:55キレット~13:20稲村ヶ岳山荘13:45~14:00水場~14:40co1630mピーク~15:10コル下登山道合流~13:40法力峠~16:25母公堂

*今回はコンディション的には春山。トレースばっちりで積雪期にしては一番条件のよい方だったと思われる。